城の崎にて、雪に会う。
立て込んでいた用事があらかた片付き、2日の暇ができた。
数日前から山陰、北近畿では例年の10倍の積雪とのこと。これは会いに行くしかない! と思い立ち、北へ向かうことにした。
手っ取り早いのは最寄りの福知山線三田駅から福知山線と山陰本線を北上し、日本海へ抜けるルート。特急「こうのとり」が頻繁に走っている。
2017年2月15日(水)、三田発8時49分の「こうのとり1号」で城崎温泉へ向かうことにした。7両連結でやってきた特急はそれなりの混雑だったが、運の良いことに窓側の指定席を取ることができた。
篠山口を出ると、畑はうっすらと白くなり木陰には雪の塊が目立つようになった。谷川、柏原と停車し9時49分、福知山に到着。京都からの特急「きのさき」と待ち合わせをして出発。この「きのさき」は福知山止まりのため多くの乗り換え客があり、空いていた隣にも人がきた。「きのさき」が城崎へ行かず、「こうのとり」が城崎へ行く不思議。乗り換えなしで行けるのだから文句はやめておこう。
ここからは初乗車の区間となる。八鹿、江原と停車し、一面雪景色の和田山。途中雪の重みで潰されたビニールハウスが目に入る。やはり例年にない大雪だったようだ。
豊岡を出てしばらくすると右手に円山川が見える。水面は湖のように静まり返っていた。2004年の台風23号では氾濫を起こし、豊岡の街が水に浸かった。人と同じく、川にも見かけによらない凶暴さが隠されている場合もあるようだ。
山陰本線の対岸にあるらしい玄武洞を少しでも見ようと、腰を浮かせて人越しに右の車窓に目を凝らしたがそれらしきものは見つけられなかった。
豊岡から10分ほどで終着城崎温泉。ここから先の区間は積雪で運転を見合わせていたが、今朝5日ぶりに運転を再開したとのことであった。機会があれば山陰海岸を眺めながら鳥取まで抜けたいと思いながら下車した。
城崎温泉は志賀直哉が湯治に訪れ、『城の崎にて』を著した場所である。彼は、熱海のような俗化された温泉地ではなく、城崎のような純朴な温泉地こそ日本風で素晴らしいという旨のことを言っていたらしい。しかし、駅前はひとだかり。時代を経て、彼の見た城崎ではなくなってしまったのかもしれない。
人混みをさけるようにして西へ向かい、ロープウェイのふもとへやってきた。足湯があったからロープウェイの出発時刻まで入っていたが、足だけ湯冷めして妙な気分になった。
ロープウェイで山頂まで登る。雪に埋もれた城崎の街と日本海に注ぐ円山川が一望できる。雪もたんまりある。80センチ積もったそうである。気温が上がってしっとりとした雪だが気持ち良い。1時間ほど滞在して下山。ロープウェイとしては珍しく途中駅がある構造になっており、途中下車してみる。温泉寺という駅名だった。ひとしきりお寺の解説が済むとおばあさんはどこかへ消えてしまい、静寂につつまれた。直哉の見た城崎に戻った気がした。