三田阿房列車

なんにも用事がないけれど、列車に乗って遠くへ行って来ようと思う。旅行記と、日々感じたことを気の向くままに。

極寒流氷阿房列車(前編)

今年行った場所 Advent Calendar 2016 の記事として書いています。

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北海道の旅は冬に限る。

鉄道作家の宮脇俊三氏は「夏の北海道だけを知ったのでは誤解のもとになる、行かないほうがマシだ」と主張している。

瀬戸内に住む私にとって、雪が降ることは非日常のことである。瀬戸内の冬はただ寒いだけで何の面白みもない。ところが北海道をはじめとした北国では冬だけと言わず晩秋から春先にかけて嫌でも雪を目にすることになる。

行き先を決めるにあたって、雪のある場所であるならどこでも良かった。ただ、雪ばかりでは飽きる。北海道東岸、オホーツク海沿岸では流氷が見られるという。そこで、日本一寒いとされる旭川、流氷の街網走を訪問することにした。

 

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2016年2月28日(日)、神戸空港を「北海道の翼」AIR DOで飛び立った。混雑の新千歳空港でラーメンを食べ、エアポート143号旭川行きの指定席に乗り込む。この列車は札幌からエル特急スーパーカムイ号となり、旭川まで連れて行ってくれる。「旭川近郊にある「神居古潭」から名付けられているのであろう。「カムイ」はアイヌ語で「神」という意味であるから、スーパーな神に乗って旭川に行くことになる。

昨年11月に旭川から千歳までスーパーカムイ号に乗車したのだが札幌からは特急券なしで乗車できる快速列車となる。帰宅ラッシュの時間帯であるため札幌で多くの乗車があった。通路までいっぱいである。しかし特急用車両であるから車両の中ほどに座っていると扉までが非常に遠い。立ち客の合間を縫って降りなければならない。非常に苦慮した。千歳には3分遅れて到着した覚えがある。これだけであれば帰宅がやや遅くなるだけなのだが、問題は南千歳ー新千歳空港間にある。この区間新千歳空港の開業に合わせて地下新線が建設された。しかし単線なのである。快速エアポート号は新千歳空港駅を毎時0,15,30,45分に発車する。新千歳空港への到着は毎時12,27,42,57分である。単線であるから到着列車を待たずに出発するわけにはいかない。1,2分の遅れであっても対向列車の遅れにつながる。対向列車が遅れると、南千歳で接続する函館や帯広方面の特急列車にも遅れが波及してしまう。

以上の理由から、旭川から新千歳空港まで直通する非常に便利な列車であるが、3月26日のダイヤ改正で札幌でちょん切られることになっている。残念ではあるがやむを得ない。

話がそれてしまったが、「スーパーな神」特急で旭川に向かった。旭川からは宗谷本線ディーゼルカーに揺られる。すでに外は暗くなっていたが雪を感じることができた。「夜の底が白くなった」がピタリと当てはまる峠の小駅、塩狩駅で下車した。この峠は、連結器から外れて峠を下る列車を、自らの命と引き換えに止めた長野政雄氏を讃えた祈念の地である。三浦綾子の『塩狩峠』に描かれている。日程を決めた後に気づいたのだが、その長野政雄氏の命日であり、祈念行事が夜に行われることになっていた。駅から雪をさくさく踏んでいくと、たくさんのアイスキャンドルが出迎えてくれた。明治末期の1909年のことであるから当時を知る人はいないが、思いは時代を超える。『塩狩峠、愛と死の記録』を著した中島啓幸氏の話を聞くと、アイスキャンドルの炎が、信仰の灯のように感じられた。彼は信仰の厚いクリスチャンであった。

行事の後はヒュッテ内でジンギスカンが振る舞われた。田上圭太氏による音楽ライブもあり濃密な1日であった。今でも「友情の花船」を聴くと思い出が蘇る。

 

後編に続く

sanda-train.hatenablog.com